気ままにときめくクリームソーダ〈八重洲〉【休日クリームソーダ日和.26】
取材と偽って普段とは違う電車に乗る。
いや嘘ではない、本当に取材なのだけど、記事にするつもりがないから偽りなのだ。
平日の朝、始業時間をちょっと回ったころ、東京駅。
昔から憧れていた作家が登壇するイベントに誘われたのは昨日の夜。
友人の後輩がPR会社に勤めているらしい。
早くに着いた会場の、一番前の席に並んで座る。
手紙にまつわるイベントの中で、その作家は最初の仕事がラジオのリスナーからのハガキの整理だったこと、50歳を迎えたときに人生のハーフタイムとして世界一周に旅立ち、旅先ごとに絵ハガキを探して日本に送ったことなどを語った。
終了後にはイベントに招待してくれたPR会社の女の子と挨拶をした。
すると、その手には紙袋。
過去にプロモーションしたというシャンプーとトリートメントが入っている。
そのまま駅の近くでランチを食べながら友人と紙袋の中身を見比べようとすると、彼女が「このシャンプー、名前がかわいいんだよ」と切り出した。
見るとシャンプーには「気ままに」の文字。
トリートメントには「ときめく」。
気ままに、ときめく。
その言葉の持つ奔放なイメージに思わず二人で笑う。
「恋多き女だね」
でも、と思った。
今日の私はまさしくそれだ。
気ままに仕事をサボってときめく作家に会いに来た。
気ままって、なんかいいかも。
なんだか軽やかなこの気分が変わらないうちに、このあと喫茶店に行かない?と誘う。
八重洲地下街をぐーっとまっすぐ歩いたところに、その店はあった。
昭和の雰囲気を色濃く残した佇まい。
店内はまだ空いていて、サラリーマンらしき男性たちが暑そうにジャケットを脱いで煙草を吸っている。
頼むものは決まっていた。
「クリームソーダひとつ」。
すると友人もそれに合わせてコーラフロートを頼んでくれた。
ずっと変わらずスリムな彼女は、意外とよく食べ、よく飲む。
おいしいものを我慢しない彼女はとても格好いい。
ところで、クリームソーダとの戦いはスピード勝負である。
あっという間に炭酸がアイスの刺激で泡立つのを慌ててストローで吸いこむ。
そして思い出す。
手紙というのは相手を思うこと、そして人は思われると幸せになる、だから手紙は「幸せを想像する文化」なのだとさっき作家は言っていた。
その作家のことがずっと前から好きだという話を、彼女が覚えていてくれたことに私は幸せを感じる。
私が受け取った紙袋には「静かに」「はしゃぐ」のボトル。
合っているんだか合っていないんだかわからないその言葉遊びを、今は気ままに楽しみたい。
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text & photo/浦田みなみ