終末クリームソーダ〈渋谷〉【No.56 キッチン Tabela】

中のテーブルが空いていなくてテラス席に着いたけど、外気にさらされながらクリームソーダを食べるにはたぶん2か月早い。
でも2か月後、このお店はもうない。

朝出かけるときにはちょうどよかったはずの半袖からはみ出た腕を夜風がどんどん冷やしていく。
頬がつっぱるような感じがして指でこすったけれど、さっきの映画で泣いたなんて思われたくないな。

お目当ての映画のチケットが早々に売り切れてしまって、正直妥協して選んだ作品ではあったけど、ここの締めくくりにはもう少し満足のいくものを観たかったなんて思うのは失礼だよね。
でも「いまいちだったね」と話しながら、最後のアップリンクの時間を過ごす。

「子どものころは渋谷って言ってもこっちの方まで来ることなかったけど、高校時代には少なくとも既にあったから、そんなところがなくなっちゃうのは残念だな」

「高校生で奥渋は渋いな。そのころにはまだこんなにお店なかったでしょ？」

そう言われて、当時の瞳で辺りをぐるりと見渡す。
「そうだね、よく覚えていないけどたぶんこんなには…」

雨に濡れたアスファルトが車のヘッドライトに照らされて光の線を落とす。

反射した先に、ジャンパースカートとボレロの制服を着た高校時代の私を投影させようとしたら、なぜかさっき駅で見かけた男子高生たちを思い出した。

「夏休み、海行く？」
「3か月後の未来なんてわかんないよ」

彼らにとっては3か月後は予定じゃなくて未来なんだなって思ったけど、今の私にも3か月先、いや1か月先はもう未来だ。
自分の予定だけを追っていればよかったのに、今は世界の未来に振り回されっぱなしだよ。

そういえば、あんなに大好きだった制服は数年前、共学化とともに廃止されたらしい。
未来なんて自分の思い通りだと思っていた私ももういない。

始まりがあれば終わりもあるなんて、そんな使い古された言葉を言えるのは、すべて終結した後だ。

未来が近づいてこないように急いで飲み干してカップを戻すと、すぐに震える足で近くのお店に向かう。

「鍋食べたい」
「あるかなぁ」

終わりを惜しむのは野暮かもしれないけど、続きを望むのは、前向きだと思ってもいいと思うんです。


text & photo／浦田みなみ


＜access＞
キッチン Tabela

住所：東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1階（アップリンク渋谷併設）
TEL：03-6825-5501
営業時間（平日）：
ランチ　11:45～16:00
カフェタイム　16:00～18:00
ディナー　18:00～23:00
（土日祝）：
ランチ　12:00～16:00
カフェタイム　16:00～17:30
ディナー　17:30～23:00

※アップリンク渋谷は2021年5月20日（木）に閉館します。