#休日クリームソーダ日和

アイスがとけるまでの刹那はあの夏の日の眩さみたい。

王様のクリームソーダ〈銀座/有楽町/日比谷〉【No.60 ネオ喫茶KING】

ネオ喫茶KING

「そこ閉店しちゃったみたいだよ」
おいしかったクリームソーダの話をしていたら、友人がインスタを見ながらそんなことを言いだした。

見れば7月で畳む旨が書かれている。
7/31、友人が出演する舞台を観に行った帰り、閉店を知ったちょうどその日だった。

数週間前に一度行ったきりなので懐かしむという感情とも違う気がするけれど、もし明日初めて行くことにしていたら、あのクリームソーダに出合うことはなかったんだと思うとなんともいえない気持ちになる。

ネオ喫茶KING

最近『キネマの神様』のCMをよく見る。
公式サイトを開くと、スクリーンに当初主演を務める予定だった大御所芸人の顔が映しだされるというキービジュアルが全面に表示される。

演技をする仕事は基本的に断っていたけれど監督の熱烈なオファーでそのキャスティングが叶ったと噂で聞いていた。
その彼の訃報はたぶん私だけでなく、この国で生きている多くの人たちにショックを与えたと思う。

映画のポスターには彼ではない人が写っている。
もし亡くなってなどいなかったら?
このポスターには予定どおりあの人の顔が描かれ、自身の冠番組などで宣伝したりするんだろう。

あまりに容易に想像できるから、この世界はパラレルワールドなのかなと思った。

ネオ喫茶KING

あの喫茶店が閉店しない世界。
あの芸人が亡くなっていない世界。
私が今みたいに転職を繰り返していなかったり、一人暮らしをしていたり、仲のいいこの人と出会っていなかったり、もしかしたら結婚して新たに家庭を築いていたりするかもしれない。

ネオ喫茶KING

この世界にはもう、王様も神様もいない。


text & photo/浦田みなみ


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ネオ喫茶KING

ネオ喫茶KING

東京都千代田区有楽町2-5-1
阪急メンズ東京 B1F

ネオ喫茶KING

左:自家製KINGクリームソーダ(いちご)
右:同(メロン)

※2021年7月31日(土)をもって閉店。
当記事に掲載している写真はいずれもそれ以前の7月内に撮影したものです。

ネオ喫茶KING

ネオ喫茶KING

 

織姫クリームソーダ〈番外編〉【No.59 クーリッシュ メロンソーダフロート】

クーリッシュ

2人一緒だと、夜がやってくるのはとても早い。

大好きだった芸人の解散liveの生配信を観て号泣したからだと思う。
23時近くなったらなんだかもうねむたくなって、隣に座る君に膝枕をせがむ。

「これは終電逃すコースだなー」なんて言って、慣れた様子で受け入れてから、しばらくすると私の歯ブラシに歯磨き粉をつけて持ってきてくれた。

「もう寝ちゃうの?」
そんなことを言ってみるけれど、本当は私の方がねむい。

ねむいけど眠りたくないから、ベッドに入ってからも思いつくままあれこれ話す。

プロジェクター

「一番大きな動物はなんだと思う?」
「クラシックの音楽家でだれの髪型が一番かっこいい?」

でも夜はどんどん私たちを包み込んで、つないだ手の平の力もついにふわっと抜けてしまう。
せめて私だけは、と思ってもいつの間にか夢の世界に潜り込んでいて、次に耳に届くのは君の目覚ましの音。
いつも「まだ時間あるんだから寝ていなよ」って言われるけど、今寝ちゃったら今日はもう会えないんだから、朝に弱い私もがんばるんだ。

支度をする君の邪魔をして、背中にのったり、くすぐったり。
やさしい君は出勤前もきちんと全部に返してくれる。
私を背負ったままベッドに連れて行って布団を巻き付けてきたり、2倍も3倍もくすぐり返してきたり。

朝からへとへとになりながら玄関まで見送ってバイバイと手を振ったらベッドルームに戻ってもうひと眠り。
昨夜張りきりすぎて特別にねむいから、始業時間直前まで寝てやろう。
リモートワーク万歳。

窓辺

ああ、今日は暑いな。
早起きの太陽がもうこの部屋に光を注ぎ始めている。

ベッドの真ん中で大の字に伸びたまま、指が隠れるほど長い袖をまくる。
起きたらのんびり支度して家に帰って、それからこないだ買ったアイスを食べよう。
そうしよう。


text & photo/浦田みなみ


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クーリッシュ メロンソーダフロート

クーリッシュ

株式会社ロッテの人気ブランド「クーリッシュ」より販売されている新フレーバー。
2021年4月26日(月)発売。
約2年前にも話題になったフレーバーの復活です。

 

お題「好きなシリーズもの」

お題「大好きなおやつ」

6月15日のクリームソーダ〈池袋〉【No.58 BOUL'ANGE(ブール アンジュ)】

ブール アンジュ

雨の日はゼリーみたい。
好きな音楽も雨音にかすれてぼんやりと耳に届く。
ちょうどゼリーの中に入っているときみたいに。

今年も昔の恋人の命日がやってきて、私は少し寂しい思いをした。
彼が死んでからしばらく、この日が近づくと体調を崩すことが多かったけれど、もうそんなこともないと思っていたのに。
PMSかと思ったら6月15日だった。

ブール アンジュ

とはいっても、彼のことを思い出そうとすると先に浮かぶのは共通の友人の方だ。
訃報を聞いて、あれはどこに向かっていたのかもう覚えていないけれど、いつもは気丈な友人が、運転する車を止めて大声を出して泣いた。
涙もろい私はそのときも後部座席で先に泣いていたけれど、彼女(彼)の震える肩を見て、ようやく恋人の死を実感したように思う。

「彼女(彼)」としたのは、友人はその日の気分で性を変える人だから。
性自認性的指向については聞いたことがない。
本人が「今日は男だから」といえば、私にとってもその日は「彼」なのだ。

ただ、その日に関してはどの性を纏っていたか覚えていない。
というよりも、本人からもなんの宣言もなく、ユニセックスな恰好をしていたように思う。
たぶん、武装する余裕すらなかったのだ。

あのときの泣き声は、今でもクリアに耳に残っている。
今日みたいに雨音が消し去ってくれたらいいのに。

クリームソーダゼリー

最初の数年間はだれからともなく何人か集まって「お別れ会」のようなものをやっていたけれど、いつの間にかそれぞれがそれぞれの6月15日を送るようになった。

恋慕などはとうにない。
というよりも、彼と付き合っていた当時、私はアセクシュアルを自認していたから、彼に恋心を抱いたことがない。
いっそ好きになったら、好きであったらどんなに楽だったかと思うことは何度もあった。

一方的に想いを享受するのみの私を咎める声はたくさんあった。
特に彼が亡くなった直後は、その責任を押しつけられる相手が欲しかったのだろう。
たくさん責められたけれど、私もそのときの方が楽だった。

よく誤解されるけれど、アセクシュアルは恋愛感情を持たないだけで、人に対して好意や情がないわけではない。
私は私なりに誠意をもって彼に接していた。
だけど、それを本当に彼も納得していたかは今さらわからないし、一人で罪悪感を抱えるよりはだれかになじられた方がずっと楽だ。

ブール アンジュ

でも時日が経って、彼のことを話題に挙げる人はいなくなった。
私を責める声も、ともに悲しむ手も、今はない。
ひとりひとり、彼の死と自分の人生にきちんと向き合い始めたのだ。
先の友人とも何年も会っていないけれど、彼女(彼)に関しては筆不精だから便りがないのはいいことだと思っている。

私も6月15日を忘れてしまうことだけを恐れながら、だけど今日の私を、明日の私を思う。
孤独感でも腹痛でも頭痛でも発熱でもなんでもいい。
この日だけは一生背負っていく。

彼の知らない人と梅雨の晴れ間に買いに行ったゼリーを食べる。
彼が亡くなって何年も経ってから出会った人だ。
その日は午前中から映画を観たり食事に行ったりしたから、先に買ったゼリーは袋の中で揺れてしまったみたいで、家に帰ったときには既に傾いてしまっていた。

クリームソーダゼリー

まったく私ときたら、大事なものでさえきちんと守り抜けないのか。

ああ、この中に入ったなら、ゼリーが柔らかく体に纏わりついて心地いいだろうな。
そしてゆるやかに窒息していきそうだ。

ゼリーの日にはゼリーを。
甘さを控えたクリームがちょうどいい。


text & photo/浦田みなみ


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BOUL'ANGE(ブール アンジュ)

ブール アンジュ

住所:東京都豊島区西池袋1-1-25 東武百貨店B1F 8番地
TEL:0570-086-102
営業時間:10:00~20:00(2021年6月時点)

※クリームソーダゼリーは東武百貨店 池袋店で開催されている「レトロカワイイ スイーツ&パン」という企画の一環で、2021年6月16日(水)~同月29日(火)までの期間限定販売。また、各日10個限定です。

東武池袋

(▲画像出典:東武百貨店/長時間持ち歩かなければこんなにかわいいデザインなんです)