シャンプーとクリームソーダ〈番外編〉【No.45 チロルチョコ〈クリームソーダ〉】
「今から泊まりに行ってもいい?」
深夜0時過ぎに唐突のLINE。
家のリフォームが終わったばかりでこの連絡はずるい。
終電を逃してタクシーで家まで直接向かうと言うので、ブラジャーだけ着けて部屋着のまま逆方向にあるドンキまで歯ブラシを買いに行く。
世界は夜を全うしているのに、ドン・キホーテは嘘みたいに明るい。
毛穴のひとつひとつまで残らず照らされているような錯覚に、急に羞恥心が芽生え、マスクが必須のこのご時世に少しだけ安心させられる。
歯ブラシ1本片手に掴んで、また夜に戻る私の方が訪問者みたい。
外に出た瞬間になにかに気づいたけれど、その小さな非日常感に溶けてすぐに忘れてしまった。
彼女がうちへ来るのは何年ぶりか。
学生のころからの付き合いだから、母も「あら、久しぶりねぇ」とだけ言ってすぐに寝てしまった。
昔から、泊まるといつも二人の声がうるさくて朝まで眠れないとよく言っていたから先手を打ったんだろう。
長話の内容は会うたび変わる。
一目ぼれした他校の男子高生、二人乗りしたバイト先の先輩、やめなよって言ったのにはまっちゃった店長とのよからぬ恋、帰りを待っている間に死んでしまったあの人、暴力を振るう元夫。
私たちは変わらないのに、関わる人たちだけが変わっていくみたい。
「え、くさ!どんだけお酒飲んできたの」
「へへっすいませんねぇ、シャワー貸してください」
「上がったらビール飲む?」
「いや、これ以上飲ますんかい」
笑い声の余韻だけ残してバスルームに姿が消えていく。
まだタオルも出していないのに、よっぽど酔っぱらっているんだろう。
脱衣所にタオルと着替えと歯ブラシを置くと、「あ」、声とともにドアが開く。
「お礼にお土産買ってきたよ、その中」
言われるままに脱ぎ捨ててあったスカートのポケットを探るとチロルチョコが2つ。
あ。
さっきレジで見かけたの、これだ。
「え、めっちゃ溶けてるんだけど!」
そう言うと彼女はまた笑い声だけ残してバスルームに戻っていく。
シャンプーの匂い。
そういえば、昔観たドラマの中で「同じシャンプーを使っているから、家族じゃなくても居場所は同じ」ってセリフ、あったよね。
さぁ今日はいったいなんの話をしようか。
text & photo/浦田みなみ
<detail>
チロルチョコ〈クリームソーダ〉
季節限定フレーバーとして2020年8月3日より全国発売。
※地域、店舗によっては取り扱いのない場合があります。