女の子とお酒のクリームソーダ〈神田〉【休日クリームソーダ日和.44】
「でもそんな仕事……」と口走り、 しまったという顔をしたおじさんに
私は「ほんとそれな〜」って笑って見せた。
わかりやすくホッとしている彼をこれ以上考えさせないように、別の話題を振る。
夜、呼びつけられて神田の自動改札を通ると、
毎日顔を合わせてる悪友が、
見慣れたワンピースじゃなく、Tシャツデニムで突っ立っていた。
私を見つけるとニヤニヤしながら手を振る。
仕事以外でもお酒を飲みたがるのは、
覚えたばかりのアルコールを自分のために飲みたいから。
目の前に現れたのは、いつものような赤提灯じゃなくて
二階から煌々とピンク色の明かりが漏れるような店。
こんなとこ、入っていいのか心配になる。
「お酒があるところなら、ウチらどこだって行けるっしょ!」
そうね、お酒は私たちのパスポート。
「ビールにする?」
メニューを見ずにたずねる。
「せっかくだから、オススメのにしようよ」
いたずらっぽく笑う彼女に、首をかしげながらも頷いた。
目の前に置かれたのはクリームソーダ、の、お酒。
見たことのないかわいさに、固まってしまう。
女の子たちが無邪気にかわいいものに飛びつくのが羨ましいと思ってた。
「ファッションのスタイリストになりたい」。
夢を持って上京したのに見事に頓挫した私が
自分に自信を持てるはずもない。
こういうのは、私みたいな半端者が頼んじゃだめなんだと思ってた。
「でもさ、上京して誰にも頼らずに生きていて、お酒も飲みに行けてるし、ウチらスゴイよね!」
と、友人が先にグラスを傾ける。
「労働前のお酒はうまい!」
とびっきりの笑顔につられて、思わずグラスに手を伸ばした。