現在と過去を彩るクリームソーダ〈浦安・千葉県〉【休日クリームソーダ日和.49】
弾かれるように顔を上げたときにはもう、窓から河が見えていた。
間違って逆方向の電車に乗っていたらしい。
到着した駅で電車を降りる。
普段なら逆側のホームへと直行するのだけれど、
私は迷わず改札を出た。
十年前、ひとり暮らしをしていた駅だった。
どうせ時間も余っているしと
好奇心から記憶を頼りに、当時の家に帰るバスに乗り込んでみる。
窓から外を眺めていると、
知っているのか知らないのか
曖昧な景色が通り過ぎていき不安を煽った。
懐かしさに心が騒ぎ立てるかと思っていたのに、
叢林に迷い込んだような感覚に眉をひそめる。
それはいつかの夢の中の世界に似た朧。
住んでいた家の近くの大きな河にも足を運んでみる。
全く記憶にないその景色を見てようやく、
ずっとまとわりついていた違和感の正体を想像した。
いつも何かに追われていた22歳の私は、
どの景色も同じ色に見えていたのかもしれない。
そんな過去の心持ちに気づくことなく、
十年の時を経た私は、
ただの思いつきで、思い出巡りをしているというのだから。
駅に戻って喫茶店に入った。
駅前で40年の歴史があるのに、知らなかったお店。
あの頃に素通りしたもの。
あの頃に縋っていたもの。
今の私に見えているもの。
どれもが少しでも違っていたのなら、
今日、クリームソーダを飲んでいなかったのかもしれない。
色が増えて混ざっていくほど、黒く濁っていくと言うけれど、
いつ、どんな色を継ぎ足しても構わないし、
美しいままで鑑賞する手段はいくらでもある。
それを今の私は知っている。
